幻想的バレエ 「輝夜姫(かぐやひめ)」 (1985)

基本
作品名(英) Kaguyahime Ballet (Night gleam princess)
作品名(独) Kaguyahime Ballett (Die nachtglänzende Prinzessin)
作品記号 056b
作品年 1985
ジャンル 舞台
演奏時間 80分
楽器 Dancers, J-Drums, Perc, Gagaku-ens
楽譜・譜面
リコーディ音楽出版社本社
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曲目解説

紫式部は、『竹取物語』を「物語のいできはじめの祖(おや)」といっている。このことは、この物語がすでに11世紀にはよく知られていたことを示している。しかし、作者は誰か、いつ頃書かれたのか、いまわれわれの知る『竹取物語』はオリジナルそのものなのか、時代の推移によって変わってきたのか…いずれもよくわかっていない。

1984年に、ー日本太鼓群と打楽器群のための交響的組曲ー「輝夜姫」(Op.56) を書いたが、この時から幻想的バレエのための音楽の構想をもっていた。「組曲」がバレエより先に作曲され演奏されたが、この作曲時から「台本」には悩まされた。それまで私が見聞きしていた『竹取物語』と随分と異なるいくつかの『竹取物語』があることがわかったためだ。どれがオリジナルに近いのかを知る術はない。それらは、「筋」は単純で大同小異ではあるが、例えば、ある『竹取物語』の内容が求婚者たちに与えられた難題─謎解き―宝探しに重点がおかれている場合、バレエの台本としては適切とは言えまい。それをなぞれば、バレエは本来の<動きの芸術>より、説明的な<パントマイム>に陥る危険性がある。このような理由から、私は、川端康成が編纂(現代語訳)した『竹取物語』と、山形県最上村に伝わる語部(かたりべ)の『かぐや姫』(収集・編纂:榛谷泰明)を参考にして脚色しバレエ台本をつくった。その大筋は次のようになっている。

第一幕

第一章 (序奏-飛来)

昔むかし、ある時ある所で、竹取りの翁は、山奥の光輝く竹の中から、三寸ほどの赤ん坊をみつける。月から飛来し、竹に宿った可愛らしい女子であった。

第二章 (輝夜姫の生いたち)

子供のない翁と媼はその子をいとおしみ、大事に大事に育てた。女の子はすくすくと育ち、知らぬ間に「娘」に成長した。夜にも輝くばかりの美しさから「輝夜姫(かぐやひめ)」と名付けた。

第三章 (輝夜姫に想いを寄せる五人の男たち)

輝夜姫の類いまれな美しさに、近隣の若者たちは一人残らず心を奪われ、一目見んものと昼夜の見境もなく翁の家に押しかけた。噂は遠方にまで伝わり、やがて輝夜姫の前に五人の求婚者が現れる。いずれも金と権力を嵩にきた者たちであった。男たちは輝夜姫をなんとか我が物にしようと競い合うが、男たちの求婚が情熱的になればなるほど、輝夜姫は深い悲しみにおちいる。

第四章への (転換場面)

場面は<争いの血>を象徴するかのように真っ赤に染まる。

第四章<宴-争い-宴>

悲しみに沈む輝夜姫をみて、翁と媼は村中の人々を招いて宴をひらき、輝夜姫を慰めようとする。輝夜姫のための村人たちの宴は、「祭り囃し」にのって盛大に行われる。その宴の最中に、たまたま近くで鷹狩をしていた女蕩しの貴公子が、美しき輝夜姫を一目見て自分のものにしようと、強引に拉致しようとする。その傍若無人の振る舞いに、村人たちは怒り、われらの輝夜姫を奪われてなるものかと貴公子の一行と争いになるが、貴公子をはずみから撲殺してしまう。貴公子一行は逃げ去る。思わぬ展開に村人たちは呆然となるが、気を取り戻して宴を再開する。

第二幕

第五章<戦い>

殺された貴公子の一族郎党が復讐のため村人たちを襲う。村人たちは輝夜姫を守るという使命感から、それに必死に応戦する。戦いは何日も何日も果てしなく続く。

第六章<輝夜姫と帝(みかど)>

遠方にあってそのことを聞いた帝が、<戦い>を平定すべく軍勢を引き連れて来て、戦いはおさまる。ところが、帝は、輝夜姫を一目見るなり、その噂以上の美しさにすっかり心を奪われてしまい、何とか側室に迎えたいと輝夜姫に愛を迫る。一時は帝の強い愛に心を動かされた輝夜姫も、やがて自分が月に帰らなければならない運命を思い苦悩する。また、本当の親よりも深い愛をもって自分を育ててくれた翁と媼とも離別しなければならず、輝夜姫の悲しみは一層深まるばかりであった。

第7章<飛天-輝夜姫の昇天>

満月の夜が訪れる。輝夜姫を迎えに月からの使者が来ることを知った帝は、自分の全軍勢をもって、輝夜姫の帰還を阻止しようとするが、強烈な<光>に守られた使者の前に、全く動くことが出来なくなってしまう。輝夜姫は、翁と媼、帝、村人たちに対する惜別の念を舞いながら、静かに空高く、満月へ向かって昇っていく。


バレエ「輝夜姫」の音楽は、日本太鼓群は主に「村人」を、西欧型パーカッション群は「貴公子側」を表現する。両者は争い―戦いの場面では、音楽的にも対決し、龍笛、笙、篳篥の雅楽合奏は、輝夜姫の内面を表すように扱われている。曲は、既述した物語―筋をある程度追ってはいるが、それぞれの情景がシンプルなため、音響的な出来事の連続(丁度、「絵巻物」のような)という構成法を可能にしている。宴の場面では、東北地方の有名な「下山囃し」の音楽を用いているが、日本太鼓群は全般的に根源的な「叩く」手法で、パーカッション群は、オーケストラのような多様な「音色彩」が得られるよう、鍵盤楽器からティンパニーまで、非常に多くの種類の打楽器を使用している。

初上演:29.11.1985/郵便貯金ホール/振付:遠藤善久/台本:石井眞木/バレエ:スターダンサーズ・バレエ団/指揮:石井眞木/雅楽合奏:芝祐靖、宮田まゆみ、高桑賢治/日本太鼓群:鼓童/パーカッション群:岡田知之打楽器合奏団

ヨーロッパ初演:1.6.1988/「オランダ・フェスティヴァル」オープニング/ネザーランド・ダンスシアター・ホール(ハーグ)/振付:イリー・キリアン/バレエ:ネザーランド・ダンスシアター・バレエ団/指揮:石井眞木/雅楽合奏:芝祐靖、宮田まゆみ、八百谷啓/日本太鼓:近藤克次(鼓童)/日本太鼓群+パーカッション群:サークル・パーカッション(オランダ)

アメリカ初演:1996/アトランタ・オリンピック芸術展示/振付:イリー・キリアン/バレエ:ネザーランド・ダンスシアター・バレエ団/他

[なおバレエ「輝夜姫」は、1993年12月、ハーグのネザーランド・ダンスシアターにおいてヨーロッパ初演のメンバーによるTV映像作品を録画、製作しており、現在まで世界各地で放映されている]

石井眞木